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図説・天台宗の法式・基本編と法要編・2冊/声明曲に口伝・秘曲として理論を越えた一面があって何人と雖も相伝の資において唱えらるべきもの

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図説・天台宗の法式・基本編と法要編・2冊/声明曲に口伝・秘曲として理論を越えた一面があって何人と雖も相伝の資において唱えらるべきもの

図説・天台宗の法式・基本編と法要編・2冊 2巻が欠 1巻と3巻 誉田玄昭 写真豊富 部数は少なそうです。資料用にもいかがでしょうか。

平安朝の初期に開創された天台宗は、絢爛たる社会的背景、奥深い教義信条と相まって、法要儀式 の中にも、きらびやか、そして奥深さと厳粛さを見出すと共に、その行儀作法や内容も、にわかに多 岐に分れることとなった。平安朝初期には、特に法華経を讃嘆供養する法華に対する信仰が盛んであ り、それが法華懺法や講経論義となって、天台宗のかしこさは、般若や華厳摩訶止観 玄義や釈籤倶舎頌疏、法華経八巻がその論議 と『梁塵秘抄』に歌われた程で、以来本宗は独自の宗風をも成すに至った。

鎌倉時代となって往生思想の興起は、簡素な武家風潮と共に、恵心僧都の漢文体から和文体へと訳 された韻を譜に表した六道講式二十五三昧の法儀を生み、真俗同座の法儀として日本化し、日本浄土 念仏式の始めとなって後世邦楽に重要な影響を与える第一歩の資料となった。即ち声明譜を用いて目 の不自由な法師が琵琶に合せて、平家物語を語ったことから平家琵琶を生み、更に転じて謡曲となり、 室町時代初期には猿楽を加味して能楽が生れ、浄瑠璃、義太夫、新内ついで長唄や端唄など、その曲 節は声明の基本的な旋律型から脱し、道俗男女共に相集って唱詠しようとする旋法や作法を生み、広 く民間信仰に導入してきたので、仏教が日本に伝承されてからは、印度や中国の梵唄為本の形式から 更に進んで、仏教の思想信仰を文学的に発表しようとする講演的な型で詠讃されることとなり、今日 残されている表白一つをみても、まことにすばらしい文学的表現で価値の高いものとして、評価され、 後には民謡、琵琶、尺八、祭文、音頭等へと発展してゆくこととなったが、それぞれの儀式もそれに伴って対応していったことである。
しかも、開創一二○○年の長い歴史の間、口伝師説による法式儀則の解説や作法集たる口決集や行 事抄も数多く、中にあっても承澄(一二八二寂)の阿娑縛抄は台密における諸作法、口伝を抄録した ものとして大切な書である。その序に「......近古之諸徳部類之篇帖、或拾広文迷浅智之短慮或好簡略関三隅之用意今補中間欲兼広略? 師?之大都具述現行之一途傍列十篇綜結廿要委記次第辨別七分斯名阿婆轉抄蓋為三部通号號雖忘入修 証之門不出仏蓮金之部故也......」
とあって、この書を書いた意義と、阿娑縛抄と名付けた意味を解説している。又、文中いわゆる「十」 とは各法門内容叙述の順序で、一、この法を修すべきこと。 二、支度のこと。 三、形像のこと。四、道場荘厳。 五、行法。 六、護摩。 七、行法用意。 八、経軌。 九、私記。 +、巻数。 「二十要」とはその細目のことである。多紀師の法式儀則の中にもこの書の指南によっているところ があるが、法式を志す者としては必ず目を通さなければならない大切な書物であることは間違いない。

次に法儀に関係する者の一般概念というか、一般的心構えについて少しく私見を述べてみたい。天 台宗は、その昔から学問宗と云われ、法儀宗と呼ばれてきたことは前述のとおりであるが、法儀宗と いう意味は、円密禅戒浄土練行など相承の法門が、多岐に分れている関係上、その法儀も各種広範に わたっているということである。

凡そ一宗の法儀は、夫々にその信仰形態を表現しようとする儀式であるから、儀式は常に恭敬と威 儀を基本として音声の法則的発生、仏器の軌則的使用の混然たる一致調和のもとに、いわゆる法悦の 妙境を出現せしめ、自己の信仰を向上することを期すると共に、他をして等しく入信の契機を獲得せ しめんとする儀式であって、要するに自他成道の作法である。従って法儀は一つの宗教的式典である と共に宗教的伝道の一方法でもあり、一宗の教義弘宣の上から、一大布教の価値をもっているといわ ねばならない。即ち、数々の修行を通じ、信仰が信者に直通するところの化儀であり、そのまま宗団 の信仰生命の維持、ひいては一宗教義伝道上、正に一大布教を全うしようとすることを、信条とする 儀式というべきであろう。

法儀は古式、伝統を尊ぶのが本質である。しかし、時世と各地方の風習、季節の相違などにより、 よろしく按配を講ずることも儀式執行の大切なことである。即ち、法儀の執行に際しては、先づ古式を尊重し、その軌範を脱せぬように努めると共に、常に時勢の推移を考え、適切な法式を組み立てる べきであろう。温故知新ということばがあるが、反対に徒らに新しいものに走って古きを忘れるとい うことは、法儀の目標を誤ったものというべく、要は伝統を重んじ、猥りに加減取捨してはならない 部分と、時宜に応じて変転すべき儀式との種別を充分に承知しておかなければならない。

ここで一言附加しておかなければならないことは、この法儀の裏打ちとしての重要な声明音曲のこ とである。それは申すまでもなく演習、習礼を経て梵唄即禅定の域にまで達しあくまで一音成仏の意 標を果すべきは勿論であるが、長い歴史は変転し、今や時勢は革新を求めるまでに来ているときに、 よろしく私共は貴い千年の文化をうけつぐ中、あくまでもそのままの姿を残さねばならない一面と時 代の進展と共にその次元において化益指導のため、時、処に応じ古式伝統より新しく加味して生まれ た現代法儀の制定を工夫し、新鮮味のこもる法式伝道の方法を打ち立てるとして、声明はいつでもこ れに対応のできる組立てを修練工夫しておかなければならないということである。このようにして執 行される法要は、実に好個の布救、偉大な布教であって、初めてよく人心を感化導入することができ ると信ずる。

宗教信仰が実際に発動するときには、必ず何等かの形でその信念を現わすことになる。法儀の執行 が宗教の実際生活面における一つの大きな使命であることは事実であるが、宗教の実際的な面は単な る個人の観念や思索ではなく、実地に生仏一如の契機でなければならない。

しかし、儀式は時機に応じて発展すべき一面もあるから、古調化して時代的生命を失った法式は、 過去の歴史を夢見るにとどまることに留意しなければならない反面、法儀の問題が常に一宗生命の根 本問題と関連して論議研究されるべきであるとするならば、法儀を単なる儀式技術とみる人たちの深 く留意すべき点であると共に、古来先徳が褒骨細心、広く一大蔵経を根源として法儀の完成に努力し た歴史を想起すべきである。
宗教儀式の執行がその教団としての独立使命を完うせんがためのものであるという意見は、阿羅漢 の弘道伝道に等しいといった人があるが、法要儀式というものは、上求菩提の祝福を示すものであり、 身口意三業をもってする対機説法であるから、その式場は勿論物質的利益とか、宗教的拡張とかいう 偏狭な道場でもない筈である。それはわれわれが仏教の真諦を直接に 体験し、将に改造せられてゆく 新しい生命に対し、偽りのない各自の自覚と思想の向上を計り、引いては幽玄溌剌たる純大乗の宝扉を開かれた宗祖大師の芳躅を偲び、宗祖の体験せられたその意義のある生活の奥底には容易に入り難いにしろ、その蹟を慕うてみたいと思うよろこびと、追慕の躍動が叡山法儀の精要である。

既に平安朝のころには多くの法儀梵唄学者が現われ、慈覚大師招来の引声、五箇秘曲、四箇法要など天台声明法式の基礎確立となり、安然大徳の音楽理論、慈恵大師の論義式制定、恵心僧都の講式の制定は以後、平曲、謡曲、浄瑠璃、能楽、長唄などを生んで、日本文化に大きな寄与をしたことは前 述のとおりである。

更に良忍上人は法式という学を打ち立てられたといってよい。現代には、法式学という一学問は建立されていないが、若し許されるならば、それは一つの哲学といってもよいのではないか。なぜなら 法儀にはそれぞれの特質を持っている。善法の発するところ威儀自ら整って大典儀として、自らを飯 入せしめ、また他をして勧発せしめる。若しそうであるならば、仏教儀式が遊戯芸術と同一視すべき でないことは、論をまたないところである。奈良朝のように篤敬三宝の向上するに従って、幾多荘厳 な法要が行われ、朝廷の御斉会、仁王会、御懺法講などの特色は遺憾なく各宗にとり入れられたと同 様、比叡山の法儀の中には、宗祖大師立教開宗のご精神たる鎮護国家思想の凝結として、強く現われ ていることを忘れてはならない。この信念あるところにわが国固有の日本民族精神が根本となって生 れた比叡山法儀の生命を見出すものであり、天台宗法儀執行の特色でもある。

最後に一言したいことは、現今では多くの研究書や解説書、テープや写真などの器具の出現によっ て、法儀を伝習することが極めて容易になったことであるが、声明曲に口伝、秘曲として理論を越え た一面があって最も大切なこととして尊重され、何人と雖も相伝の資において唱えらるべきものとさ れているとおり、法儀においてもそれが重要な条件であり、格別の演練研修を経なければならないこ とを承知すべきである。
(昭和五十七年六月十六日比叡山居士林における天台仏青研修会講演要旨)


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